JRのきっぷに関するルールは複雑難解であり、鉄道マニアの私でも知らないルールが多々存在します。
そんなJRのきっぷのルール(旅客営業規則)の中でも、首都圏在住であれば比較的触れることが多そうな特例が、旅客営業規則第70条(東京付近の特定区間を通過する場合の特例)です。
下図の太線区間を通過する場合は、太線区間上の入口の駅から出口の駅までは、後戻りしたり再度同じ駅を通らない限り、普通運賃・料金は、実際に乗車する経路にかかわらず、太線区間内の最短経路の営業キロで計算します。この場合、営業キロが100キロを超える乗車券(大都市近郊区間のみ利用の場合を除く)ならば、途中下車もできます。
なお、東京~品川間の新幹線は太線区間に含みません。
運賃計算の特例:JR東日本 より引用
要するに「東京山手線内とその外縁の一部区間を通過する際、その区間内の運賃は実乗車経路に関わらず最短経路の距離で計算する」という特例になります。
なお「計算できる」ではなく「計算する」なので、該当する場合は強制的に適用されるものになります。
先日、この特例区間において最短経路外へう回乗車し、う回経路上で途中下車する機会があったのですが、最短経路外でも途中下車できる根拠が気になっていたことを思い出し、調べてみることにしました。
実際に使用した乗車券
実際に使用した新潟→横浜市内の乗車券
70条区間となる赤羽~品川間は最短となる東北本線・東海道本線経由で運賃計算されているが、山手線新宿駅の途中下車印が押印されている
今回使用したこちらの乗車券ですが、右上に「新宿」の途中下車印が捺されています。
券面表示経路では郡山(東北新幹線)東京(東海道本線)横浜と、山手線の東側を抜けていく形となっており新宿は通りません。
最初は券面表示経路通り乗車する予定でしたが、新宿へ立ち寄ることになったため、東北新幹線を大宮で下車し埼京線に乗り換えて新宿に向かいました。
(大宮~赤羽間も券面表示経路の新幹線ではなく埼京線に乗車していますが、本件とは別の特定区間のためここでは説明を省略します)
新宿では経路外と判定されて自動改札機を通過できなかったのですが、「確か70条とかいうヤツが適用されて精算無しで途中下車できたような…」と思い、有人改札にて「途中下車したい」と申し出たところ、乗車券に途中下車印を捺していただき下車できたのでした。
当時の私はこの特例についてあまり自身が無く、「もし乗り越し精算を求められても反論できないな…」と思ってしまったので、いつか調べてブログのネタにしようと考えていました。
ちなみに「70条区間の駅員がこの規則を知らずに乗り越し精算を求めてきて口論になった」という話(本当か…?)をネットで見たことがあるのですが、今回そのようなことはありませんでした。
また、この乗車券ですが横須賀線の武蔵小杉では自動改札機で途中下車ができました。
これは東海道本線の品川~鶴見間が大井町経由と西大井経由のどちらも利用可能な特定区間に指定されているためですが、新宿の自動改札機は通過できないのに武蔵小杉では問題なく通過できるのはどこか不思議な感じがします。
旅客営業規則を見てみる
本記事の最初で引用したJR東日本のホームページは「きっぷあれこれ」という、旅客営業規則のうちJR東日本に関するものをピックアップしたものです。
JR東日本のホームページでは旅客営業規則そのものも公開されているので、該当の条文を見ていきます。
第70条 特定区間における旅客運賃・料金計算の営業キロ又は運賃計算キロ
- 第70条
- 第67条の規定にかかわらず、旅客が次に掲げる図の太線区間を通過する場合の普通旅客運賃・料金は、線区間内の最も短い営業キロによって計算する。この場合、太線区間内は、経路の指定を行わない。
- (注)東海道本線(新幹線)中東京・品川間は太線区間に含まない。
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第3章 旅客運賃・料金 -第1節 通則 より引用
70条では冒頭で引用した「きっぷあれこれ」と同様に「東京山手線内とその外縁の一部区間を通過する際、その区間内の運賃は実乗車経路に関わらず最短経路の距離で計算する」ということが書かれています。
70条は旅客営業規則の「第3章 旅客運賃・料金」内に記載されています。
ここではあくまで「運賃計算の話」をしており途中下車の話はしていません。
続いて途中下車の話をしている条文を探します。
第156条 途中下車
- 第156条
- 旅客は、旅行開始後、その所持する乗車券によって、その券面に表示された発着区間内の着駅(旅客運賃が同額のため2駅以上を共通の着駅とした乗車券については、最終着駅)以外の駅に下車して出場した後、再び列車に乗り継いで旅行することができる。ただし、次の各号に定める駅を除く。
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第4章 乗車券類の効力 -第2節 乗車券の効力 より引用
途中下車に関することは「第4章 乗車券類の効力」に記載されています。
この156条では、「乗車券は券面に表示された区間内では途中下車できることが基本ルールだが例外がある」ということが書かれています。
(近距離の乗車券や大都市近郊区間完結の乗車券で途中下車できないのは例外的なものということになります)
引き続き規則を見ていきます。
第159条 特定区間を通過する場合のう回乗車
- 第159条
- 第70条第1項の規定を適用して発売した普通乗車券、普通回数乗車券又は団体乗車券を所持する旅客は、同項に掲げる図の太線区間を通過する場合には、この区間をう回して乗車することができる。
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第4章 乗車券類の効力 -第2節 乗車券の効力 より引用
159条には、「70条の規定が適用される場合は該当区間をう回乗車できる」ということが書かれています。
70条の「運賃計算の話」と159条の「乗車券の効力の話」を合体すると、「70条の規定が適用される場合、該当区間では最短経路で運賃計算をするが、最短経路以外をう回乗車してもよい」という事になります。
第160条 特定区間発着の場合のう回乗車
- 第160条
- 第70条第1項に掲げる図の太線区間内にある駅発又は着の普通乗車券又は普通回数乗車券を所持する旅客は、その区間内においては、その乗車券の券面に表示された経路にかかわらず、う回して乗車することができる。ただし、別に定める場合を除き、う回乗車区間内では、途中下車をすることはできない。
JR東日本:旅客営業規則>第2編 旅客営業 -第4章 乗車券類の効力 -第2節 乗車券の効力 より引用
次の160条では「70条区間内の駅発着の場合も70条区間をう回できるが、う回経路内では途中下車できない」ということが書かれています。
具体例を示すと下記のような事になると思われます。
(例)錦糸町(70条区間内)→函南(総武本線・東海道本線経由)の場合、最短経路の馬喰町経由で運賃計算をするが、両国・神田経由のう回乗車も可能。ただし両国~神田間のう回経路内では途中下車できない。
(ただし実際には、途中下車可能となる100kmを超える乗車券の場合東京山手線内もしくは東京都区内発着となる特定都区市内制度が適用されるため、160条の出番は少ないと思われます。)
160条では特定の区間の途中下車を禁じている一方、159条にはそのような記述はありません。
結論
今まで確認した条文をまとめると下記のようになりました。
| 70条 |
特定区間では最短経路で運賃計算をする |
| 156条 |
乗車券の券面に表示された区間内では原則として途中下車ができる |
| 159条 |
70条の特定区間ではその区間内でう回乗車ができる |
| 160条 |
70条の特定区間内の駅が発着地の乗車券でも70条区間内をう回乗車できるが、この場合う回経路内では途中下車できない |
結論としては、「70条特定区間内でう回乗車をした際、途中下車を禁じる条文が無いのでう回経路内で途中下車は可能」ということになると私は考えます。
仮にう回経路での途中下車が不可能なのであれば、159条も160条と同様に「う回乗車区間内では、途中下車をすることはできない。」という1文が最後に付くはずで、う回乗車するからといって乗車券は途中下車できるという原則は崩れないということになるのではないでしょうか。
また156条の「乗車券の券面に表示された区間」というのは乗車券の経由地(ルート)のことを指していますが、本来購入時に決定しなくてはならない(=券面に記載しなくてはならない)経由地を70条区間では乗車券の使用開始後に(指定された範囲内ですが)経路を選択しう回乗車できる訳ですから、う回乗車区間も「乗車券の券面に表示された区間」と同等の区間として扱われ、160条のように特段禁じられていなければ途中下車できる原則からも除外されないと考えることが自然ではないでしょうか。
「言われてないからオッケー」というのは若干モヤモヤが残るところではありますが、自分の中では上記をもって結論としたいと思います。
おわり。